種苗法改正法案について、食の安全・安心議員連盟の声明を発表しました
種苗法改正法案について、食の安全・安心議員連盟の声明を行いました。
令和2年5月20日
出演者
食の安全・安心議員連盟 役員(役職、プロフィール等)
会長 篠原 孝 (衆) 農水官僚 農学博士
幹事長 徳永えり (参) 野党合同部会農林水産部会長 飲食店経営
事務局長 川田龍平(参) 厚生労働委員 農林水産委員
事務局次長 田村まみ(参)厚生労働委員 消費者特別委員
グローバリゼーションによりヒト・モノ・カネが国境を越えて自由に動くようになった中、中国発の新型コロナウイルスがまたたくまに世界中に広まり、世界は未曾有の大混乱の真っ只中にある。そうしたことから、今までのやり方がまずかったのではないかと反省する傾向が見られるようになった。
一方、種の世界では我が国は2018年4月1日、米・麦・大豆等の主要農作物を各都道府県で責任持って供給することを定めた「主要農作物種子法」を廃止し、更に「農業競争力強化支援法」第8条4項で公的試験研究機関が有する種苗の生産に関する知見を民間に提供するという条文が設けられた。この結果,国籍を問わず種の遺伝資源が民間企業にわたり、農家は、その種子を買って農業をしなければならない危険に晒されることになった。化学肥料、農薬、農業機械と同じく、種も世界を股にかけて流通していくべきという改悪だった。つまり、種の世界では一周遅れでグローバリゼーションをまだ追い求めていたのだ。
そこに今回の種苗法の改悪である。優良な種子の海外流出を防ぐためという大義名分を掲げている。我々もこの目的は支持する。日本の在来種や、日本の研究機関が育成した品種は、いわば日本の公共財であり、和牛の精子同様に外国に持ち出されることは阻止しなければならない。なぜならば、日本の種が外国の巨大企業の手に渡り、それを元に品種改良がなされ、品種登録され、日本の農家が多額の種代を払わなければ使えなくなるといったことが危惧されるからである。
しかし、今回の「種苗法の一部を改正する法律案」にはそうした危険を阻止する直接的条文は見当たらない。その一方で、海外流出を抑えるため、農家の自家増殖を禁止するという改悪が行われようとしている。現行の種苗法第21条第2項では、農家の自己の経営内での自家増殖は明文をもって認められていた。それが今回削除され、原則禁止されるとなると、原則が大きく変わることになる。
農水省は、育成権者と農家との個別の契約によっては、従来通り自家増殖が認められるというが、許諾料を毎年払ったり、高接ぎ毎に許諾料を払うと明らかにコスト増につながる。農家の負担を増やし、農業経営を著しく圧迫することになる。自家増殖は登録品種以外は禁止されず、米は84%、野菜は91%が自家増殖可能だと説明しているが、今後登録品種が増えていくことが予想される。そうした中で、食の安全を脅かすと懸念される遺伝子組換え作物も入ってくる可能性も増大することになる。
なお、UPOV91年条約(植物の新品種の保護に関する国際条約)も第15条において、自己の経営地において増殖を目的で使用することを認めている。また、「食料及び農業のための食物遺伝資源に関する国際条約」でも農場で種子を利用する権限を制限しないと規定している。
自家増殖を抑えれば、海外流出を止めることができるというのだろうか。海外流出は農民が自家増殖をし、それを海外に手渡すことが原因であるかのような、本末転倒した前提で法案が成り立っている。海外への流出は、国境措置等により防ぐべきであり、国内の農家を規制したところで効果は少ないとみられる。
優れた農家、意欲の高い農家はおしなべて次期作用に自ら優良種子を選んだり、枝振りのいい木の穂木を選んで高接ぎしながら経営を行ってきている。これが我が国の農業の発展にも相当寄与して来ており、自家増殖は農民が持つ当然の権利として認められてきている。今回の「種苗法の一部を改正する法律案」はこの途を閉ざすことになる。
我々は今このコロナ禍騒ぎの中、進取の気概に富んだ農民に制約を設ける改悪には断固反対する。